■肉体と精神の乖離(内在する暴力)
この作品の基調となる現代の内在する暴力は、作者によって、さまざまな形で表現される。ノモンハン事件では、それは、派手な戦闘シーンの回想ではなく、現代人に内在化可能な“皮剥ぎ”のシーンや井戸に代表される自己の肉体喪失として現れる。その内在化する暴力と精神のアンバランスな関係が物語の隠された主旋律となる。主人公である岡田トオルの個性化は、その内在化をより具体的にするための個性づくり(平均化された優しさ)に重点が置かれることでよりその命題を明確に露出させることになる。
性と暴力、肉体の喪失と精神の乖離による日常性の獲得という日本社会自体の内包する課題が、ぎりぎりの「物語性」(第2部まで)と「断片化した現実」(第3部)という現代小説を象徴する2通り表現によって、それぞれ語られることでこの作品は他作品と異なった地平を歌い上げることを可能にしたといえる。
| ノモンハン事件:関連情報■(本書での村上自身が参考文献として上げているものは、除いています。)
●入門書/『司馬遼太郎が語る日本・』(週刊朝日増刊号)にある講演「ノモンハン事件に見た日本陸軍の落日」(1994年12月6日、陸上自衛隊幹部学校、陸戦学会総会記念講演より、この事件の背景を知る上で大変参考になります。是非読んでください!)●戦闘の概要/サイト“ガオガオ戦略研究所”のノモンハン事件に詳しい。●書評/『ノモンハンの夏』(半藤一利著、文芸春秋社)の書評。、『草原の死闘』(北見業書、小林正編)の書評、紹介。
2001年8月2日●『ノモンハンの夏』(半藤一利)の書評ガイドをアップしました。 |